Draft

※草案のため、登場人物の名前が連載作品とは異なる場合もございますが、あえて訂正せず草案をそのまま掲載しております。

東京都大田区 住宅街(早朝)

静まり返った街――――。
人通りもなく、車も走らず、鳥すらさえずらない。
【AM06:07】
ふいに―――、「パン!」と乾いた音が響き渡る。


5階建てマンションの1階 室内

右端の一室から響く切迫した男の叫び声、

  • 「(声)わざとやな!わざと時間稼ぎなんかしやがって!俺を甘く見んなや!こいつ殺すぞ!!」
  • 「(声)イヤーッ!」
  •  
  • 「パン!パン!」

乾いた音、マンションのガラス窓が蜘蛛の巣状に割れる。


カットバック

ビルの屋上、車の陰、向かいの家の庭、あらゆる場所から狙撃銃の砲身が突き出される。
マンションのすぐ側には抗弾ベストを着込んだ黒い集団。
背中にはSAT(特殊急襲部隊)の文字がある。

  • 小隊長
  • 「(無線)突入の命令はまだか?」


路上

現場マンションより300mほど離れた場所にマイクロバスが停車している。


同車内

数十のモニター、通信機、オペレーターが卓を操る。
中隊長(指揮官)の中丸、無線機を握り締め、

  • 中丸
  • 「(無線に)まだだ。(苦々しげに)上は一体何をしてるんだ……」

電話が鳴る。

  • オペレーター
  • 「(取って)本庁からです」
  • 中丸
  • 「(受話器を受け取って)中丸です。突入ですか?―――え!?すみません、もう一度お願いします………。我々じゃない者にやらせる―――!?


マンションの一室
  • ガランとした室内、部屋の真ん中にジーンズにシャツというラフな出で立ちの男がポツンと座っている。
    耳に入れた無線機のイヤホンから、

    • 相手の声
    • 「神御蔵、出番だ」
    • 神御蔵
    • 「了解」

    立ち上がる神御蔵 勇太郎(26)、ポケットから手袋を取り出すと、両手にしっかりとはめていく。甲の部分には刺繍で「大祓」と記されている。
    壁には沢山の落書き、すべて人を象ったものが描かれ番号が振られている。

    • 神御蔵
    • 「(そっと壁に耳を付け)6番か………」

    6番の番号を振られた落書きの前に立ち、ボクシングのファイティングポーズを取る神御蔵、

    • 神御蔵
    • 「せいっ!」

    裂ぱくの気合と共に放たれる左ストレート、
    拳は壁を突き破り部屋の向こう側へ、「ドシャッ!」という鈍い音が響く。


  • 穴の開いた壁の向こう、
    拳銃を抱えたまま顔面から鼻血を出して気絶した立て篭もり犯が転がっている。
    奥には震えている若い女………。

    • 神御蔵
    • 「(無線に)想定、終わり。(若い女に向かって)ちわーっす、警察です。助けに伺いました」
    • 若い女
    • 「(呆然)………」

    救急隊によって抱えられていく人質となった若い女、そして担架に乗せられて運ばれて行く気絶した立て篭もり犯。

    • 男の声
    • 「お疲れさん」
    • 神御蔵
    • 「(振り返って)隊長、お疲れっす」

    背広姿の男、香椎 正人(41)。 

    • 香椎
    • 「(犯人を眺めて)すぐにでも聴取したいだろうけど、当分目は覚めんな……」
    • 神御蔵
    • 「そりゃもう、俺の熱い魂を拳に込めましたからね」

    「大祓」と書かれた手袋を見せて笑う神御蔵、  

    • 香椎
    • 「お前、骨はなんともない訳?」
    • 神御蔵
    • 「はい」
    • 香椎
    • 「丈夫に育ったんだな………」
    • 神御蔵
    • 「お袋に感謝っす。………それよりこれ(壁に開いた穴)、修繕費って出るんすよね………」
    • 香椎
    • 「一応、上には掛け合ってみるがな」
    • 神御蔵
    • 「お願いします!今月苦しいんで………」
    • 香椎
    • 「またこれか?(何かを作る動作をして)」
    • 神御蔵
    • 「(何かを作る動作をして)またこれっす」
    • 香椎
    • 「好きだねぇ、お前も」
    • 神御蔵
    • 「止められませんよ、ハハハ」

香椎と神御蔵を見つめるSAT、そして中隊長の中丸、

  • 隊員達
  • 「なんだあれは………」
  • 中丸
  • 「(唖然として)あれが噂に聞いてた第3の『S』か………」


東京ドーム 外観(夜)
  • 会場の歓声と熱気が外まで溢れている。
    【3年前―――】
    掲げられた大縦幕が風に揺れる。
    大和ジム「ミクラス勇」vs東和ジム「東田賢大」、ミドル級王座決定戦。
    幕を見つめる男、香椎正人である。

    同 観客席

    辺りを見回して、

    • 香椎
    • 「(隣の親父に)ここ、空いてます?」
    • 親父
    • 「誰もいねぇって事は空いてるって事だろ」
    • 香椎
    • 「(笑って頷き)………どっちが強いんですかね?」
    • 親父
    • 「(胡散臭そうに香椎を見て)そりゃおめぇ、東田に決まってらぁ」
    • 香椎
    • 「東田、ですか………」


同 リング

ミクラスにパンチを繰り出す東田、しかしことごとくかわされて当らない。
腫れ上がった顔、右目の上はすでに切れ、鮮血が流れている東田。


同 観客席

  • 親父
  • 「俺はこの10年、試合は前座から全部見てる。今にわかる」


同 リング

  • リングアナ
  • 「―――押しております!重戦車ミクラス、凄まじいラッシュ!東田、成す総べなくコーナーへと追い込まれて行く!!」
  • ミクラス
  • 「フン!フン!」
  • 東田
  • 「!?」

ついにコーナーへ追い詰められる。

  • リングアナ
  • 「追い詰めたミクラス!東田、万事休す!!」
  • 吉塚
  • 「今だ、そこ!叩っ込め!!」
  • 坂口
  • 「やったらんかい、ミクラス!」

セコンドの吉塚公一(35)と会長の坂口彬(61)が叫ぶ。
ストレートを放とうとスイングするミクラス。


同 観客席

  • 香椎
  • 「(呟き)決まりだな………」

その時――――!!!

  • 男の子
  • 「パパ、頑張れ!負けるな!」

東田の息子(5歳くらい)、リング下からボロボロになった父親の名前を呼ぶ。


同 リング
    • ミクラス
    • 『パパ………!?』

    ミクラス、視線の端にリング下から叫ぶ男の子の姿を捉える。
    怯えて歪んだ東田の顔目掛けて、ミクラスの左ストレートが迫る。
    だが………、顔面にヒットする間際、ストレートの軌道が逸れて――――、

    同 観客席

    • 香椎
    • 「(ハッとして)何―――!?」

    同 リング

    空振りしたミクラスの顔面が、「打って下さい」と言わんばかりに東田の前に晒されて………、

    • ミクラス
    • 「!!」
    • 東田
    • 「クァッ!!」

    東田渾身のアッパーがミクラスの顎を打ち砕く。
    リングに転がるミクラス。

    • 吉塚
    • 「立て!おい、ミクラス!」

    必死にもがくミクラス、しかし無情のテンカウントが響く。
    K.O.負けを喫するミクラス………。

    • リングアナ
    • 「なんというどんでん返しでしょう!ミクラス、目の覚めるような空振りで自滅しました!」

    会長の坂口、悔しそうに目を閉じて………。

    • ミクラス
    • 「………」

    虚ろな視界の中、息子を肩車して高々と手を上げる東田の姿がぼんやりと見える………。

    同 会場

    • 親父
    • 「(得意そうに)ほらな、俺の言った通りだろうが。あいつ(ミクラス)は素質はすげぇが、ここ一番に弱いのさ」
    • 香椎
    • 「(呆然として)」
    • 親父
    • 「おめぇ、聞いてっか?」
    • 香椎
    • 『―――俺には、わざとパンチを外したように見えた………』


警察庁 外観(深夜)

不夜城のように窓には明りが灯っている――――。

  • ナレーション
  • 「2009年、犯罪は増加、凶悪化、低年齢化の一途を辿り、殺人の報道が為されない日はないといっても過言ではない。警察庁では断固としてこの流れに対抗するべく、新たな部隊の創設を検討し始めた。
    犯罪抑止力となり、一度犯罪が発生すると確実な実効性を伴って現場に当る強力な部隊。特殊急襲部隊、特殊犯罪捜査係に続く第3の「S」である―――」



警備第一課 室内

一人座っている香椎、机の上には紙がある。

【内命 
 香椎正人 新たに創設される「S」の中隊長に任ずる。
 直ちに隊員6名を選任し、組織を実行せよ。
                    警察庁長官 安倍 淳三】

  • 香椎
  • 『あの時―――』

怯えて歪んだ東田の顔目掛けて、ミクラスの左ストレートが迫る。
だが………、顔面にヒットする間際、

  • 香椎
  • 『ミクラスの視線が動いた。そしてストレートの軌道が逸れて――』

ふいに受話器を掴んで電話をする香椎、

  • 女の声
  • 「はい。科捜研」
  • 香椎
  • 「あ、横川ちゃん、ちょっと聞きたい事があるんだけど」


警視庁 科学捜査研究所 室内

白衣の女、横川寛子(29)科学捜査研究所主任

  • 横川
  • 「(煙草をふかしてパソコンに向かいながら)何?」
  • 香椎
  • 「(声)プロボクサーが思いっきり振り抜いたパンチのスピードってどれくらいか知ってる?」
  • 横川
  • 「仕事、それとも遊び?」
  • 香椎
  • 「(声)遊びな感じ」
  • 横川
  • 「30kmくらいじゃない」


警備第一課 室内

  • 香椎
  • 「え………」
  • 香椎
  • 『そんなもんか………』


科学捜査研究所 室内

  • 横川
  • 「時速30kmを秒速に換算すると約8.3m。腕の長さを60cmとすると、相手に到達するまでの時間は0.072秒」


警備第一課 室内
    • 香椎
    • 『0.072秒………』
    • 香椎
    • 「相手にパンチを当てる直前、軌道って変えられると思う?」
    • 横川
    • 「(声)人間の反応速度は0.2秒前後と言われてる」
    • 香椎
    • 「て事は変えられない………」
    • 横川
    • 「(声)もういい?」
    • 香椎
    • 「ありがとう、横川ちゃん」
    • 横川
    • 「(声)薩摩の黒豚しゃぶしゃぶ」

    そう言うとガシャッと電話が切れる。

    • 香椎
    • 「もう一度確かめてみる必要がありそうだ………」

    鋭い眼差しの香椎―――。

    episode.000-2へ続く


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